毎晩お風呂で防水仕様の書籍リーダーを使って読書します。つい最近読了したのがこれ。
Sapiens - A Brief History of Humankind -
日本語訳も「サピエンス全史」として出版されているので、内容についてはこちらをご覧ください。
世界的に有名な気鋭の歴史学者の著作なので、ビクビクしながら読み始めたのですが、その予想が嬉しくも裏切られ、なんとなんと、「読み物」として、とてもおもしろかった。長いから読了まで時間を要しますが、全く飽きることなく読み進めることができます。
考えてみたら、頭の良い人には「自分ほど頭の良くない人や知識の少ない人に分かりやすく説明するのが上手」という特徴があるよね。この人は才気煥発であることに加え、イスラエルという古い慣習も残る国でゲイとして生まれているので、「分かりやすく説明する能力」がますます研ぎ澄まされたのではないかな。
で、ここでお話したいのは本の内容ではないのでして。英語の三人称単数形です。
英語の三人称には男女しかないので(itは人称ではない)、性別がわからない場合、たとえば犯罪の容疑者について警察からの情報が「a suspect」(ある容疑者)しかない場合にニュースなどで三人称をどうするかというと、普通は複数形である「they」という言葉を使います。1人なんだけどね。ちょっと変な感じだけど、文法的にはそれで正しいらしい。
元々は必ず「he」を使っていたのです。今も「he」を使う人は多い。ただ、当然、まずいでしょ。性別不明なのに、なんで男なの?人間は男しかいないの?というわけで、数十年前にフェミニストたちが声を上げ、今では一般の人の感覚でも「he」は変に感じるようになってきたように思います。
これ、ハラリ氏は「she」を使うんですよ。彼は本書をヘブライ語で執筆したのですが、英語は完璧に使える人で(彼が学会で英語で話した内容を日本語に訳したことがあるので確実です)、自ら英語訳を担当したとのこと。河出書房新社出版のサピエンス全史は、この英語版をもとに翻訳されたもの。
例えば、原始時代の集落に関するこの文:
The average person might live many months without seeing or hearing a human from outside of her own band, and she encountered throughout her life no more than a few thousand humans.
(平均的な人であれば何カ月も彼女自身の集団の外にいる人間を見聞きせずに暮らすこともあり、彼女が一生を通じて遭遇する総数はほんの数千人であった。)
こんな感じ。これはこれでまた変な感じなんだけどね。でも、ハラリ氏なりのこだわりだと思います。
ちなみに、現時点では男女の三人称単数形の使用をやめようという意見もあります。それはよくわかる。heもsheも変な感じなんだよ。性別が分かっている場合でも、いちいちheとかsheとか言う必要あるの?という意味で。それに、どちらの性にも分類されたくない人もいるしね。中性形を作ればいいんだよね。